「有紀ぃー、今日はあれだから…早く帰るのよー」
「はいはいはい」
革の手提げを引っつかんで、半袖のセーラー服姿の女子高生が玄関を飛び出してく
る。肩甲骨の下まで伸びたつややかなストレートヘアが翻る。XX大付属高1年の
15歳、本田有紀は小走りに学校への道を急ぐ。まだ残暑の日差しが強い中を走る
と、すぐに汗が噴き出てくる。長い髪を横から流しただけの清潔なヘアスタイルだ
が、抜けるような白い肌と、タレントの石原さとみをきりっとさせたような美しい
、はっきりした目鼻立ちが人目を引いてしまう美少女だ。

(ああ、もう。今日は用事多すぎ)とぼやきながら急ぐ有紀は、脇からふらふらと
こぎ出してきた自転
車には最気付かなかった。
「…XX高のひと?」
急に横から声をかけられて驚いた。小走りの有紀の脇に、ママチャリに乗った高校
生らしき男がいつのまにか並走していた。
「あ…は、はい」男は寝癖ではねたセットしていない髪で、にこにこしている。
「1年生?」
「え…ええ」(なにこの人…)不良には見えないが、最近は外見ではわからない。
警戒するに越したことはない。顔はちょっと見にはイケメン風だけど…。
「いまそこへ行く途中なんだ」(他校のひとかしら…)
「東京の娘って発育がいいと聞いてたけど、みんな君くらいの胸なの?」
、有紀は何を言われたのか理解できなかった。しかし瞬時に頭に血が上る。

「なッ…!!」
「おれ、急ぐから先行くね」と言って男はあっというまに速度を上げて走っていく。
一人残される有紀。思わず立ち止まってしまった。
「なにあれなにあれなにあれ!」朝のさわやかな気分が台なしだ。
(そりゃ…大きくはないけどさ)有紀は小さなブラを買い替えていなかったことを
悔やんだ。実は最近、腰や胸に肉がついてきて、女らしい身体になってきているこ
とを少し恥ずかしく思っていたが、まさかそんな事を言われるとは。
特にブラジャーは65Bが小さくなってCに買い換えようとしていた矢先だった。
(本当は結構あるのよ!)…と言って見せられるわけではないが。

「有紀ぃ。なにむくれてんの」
「なんでもない」ぶっすりとして席につくとすぐ、出席簿を持った担任が教室に入
ってきた。
「起立」あわてて有紀が声を上げる。わらわらと皆が立ち上がり「礼」。
「夏休み明けだが、みんな…変わりはないようでなによりだ」担任が全体を見回す。
「だが、今日は少し変わったお知らせがある。転入生だ」
どっとどよめく。(うちに転入って…?)ひそひそ声があちこちからする。
「はいはい、注意」と担任が手を叩く。

「当校への転入は珍しいが、同じ国立大付属の学校からなら試験を経ればできる。
彼は九州の○大付設高から、君らの入試より難しい選抜を経て入った仲間だ」
全国有数のエリート高であるだけに、同級生の出来には生徒たちは敏感だ。「きみ
、入って」
ゆっくりと壇上に上がる。男の姿を見て、有紀は思わず両手を机に叩きつけそうに
なる。(朝の、あいつ!)
「沢村慎二くんだ」
有紀はさらに大きなショックを受けた。(さわむら…しんじ?)そのあとの彼のあ
いさつもよく耳に入らなかった。
「…本田…ホンダ!!」
「…あ、は、はいッ!」ぼうっとしていた有紀は担任の大声に現実に引き戻される。
「沢村に基本的な学校のことを教えてやってくれ」
「あ…あたし、ですか」
「委員長なんだから、あたりまえだろう。何か不満か」
「い、いえ」
渡り廊下を歩きながら、きょろきょろ校庭を見回している慎二を憎らしそうに見つ
める有紀。

「結構人数いるんだねえ」
「…どういうこと」
「え?」屈託のない笑顔で振り向く。
「なんで…朝言ってくれなかったの」有紀の美しい眉がきりりと上がる。
お母さんの紹介が午後あるから、と思ってさ」
「それに失礼だわ!あんなことッ」朝のからかいを思い出して声のトーンが上がる。
「ごめんごめん、じゃあまた後で」と言うと、逃げ出していく。
「ちょっとッ…待ちなさい」と言いかけて、有紀はため息をついた。(はあ…少し
は期待してたのに)
有紀の母、由布子が来月再婚する。父が亡くなって13年、まだ38歳の母がよう
やくつかんだ幸せだった。連詩の会で知り合った、7つ上の大手出版社の編集者、
沢村真と恋に落ちたのだった。女手一つで有紀を育ててくれた母が幸福になるこ
とに反対はできなかった。

まだ九州支社に勤めていた真が折りよく東京に戻ることになり、結婚を決めたのだ。
問題は…真の一人息子の慎二。同い年の高校生は学校が忙しいといってなかなか会
えず、ようやく今日、家族での顔合わせに来るというので有紀も少し楽しみにして
いたところだった。新学期を境に東京の学校に転校するとは聞いていたが、まさか
、同じ高校、同じクラスとは!
(黙っておどかすなんて、カンジ悪い!)家族の中に男がいなかった有紀は、お兄
ちゃんのような存在になってくれるかも…という期待も裏切られたことにも腹を立
てていた。(しかも来月の引越しまで、うちにいるわけでしょ。あ?あ、なんか気
が重いわ)

夕方、生徒会の打ち合わせを終えて駆け込んできた有紀とほぼ同時に、出張で来て
いた真がお土産を持ってやってきた。真は優しくダンディーで、いかにも自慢でき
そうな父親になりそうな人だ。それにひきかえ…。
慎二もここではさすがにかしこまっている、有紀は愛想笑いを浮かべながら、あた
りさわりのない会話を交わす。母親の方を見ると、目線は真の方をみつめたままだ。

(べた惚れなのよねえ…)
新しい家族となる4人は、まだぎこちなく気を遣いあいながら由布子の大量の手料
理を腹に収めることに忙殺された。今晩は真も泊まっていくという。有紀は勉強を
口実に、早々に2階の自室に引き上げた。
「なんか疲れたなあ…」今日はいろいろあったし、楽しい休みも終わって学校も始
まった。妙に眠いのも当然だ。有紀は風呂のあとすぐに床についた。

か…らだがなんか重い…いま…何時だろ…。夢なのか現実なのか、ふわふわと雲の
上を飛んでいるような心持ちがする…。有紀はぼんやりと天井を見上げた。スモ
ールランプが付いている。(あれ…あたし消したはずだけどなあ…)それに、手
も足も突っ張っているような気がする…(なんでだろ…)手の先を見る。
手首に紐が巻き付いている。(おかしいな…紐って…ひも???)

正気に返った有紀は、腹の上あたりに見えた人間の姿に姿に気づき、思わず絶叫を
上げようとした。人間の姿のようなものが、あわてて有紀の口を手のひらで押さえ
る。
「ンムムムム!!!」
(「ばか!聞こえるだろ」)ささやき声で強く言った、声はまぎれもなく慎二だ。
そうと気づいた衝撃と、次にそれ以上のショックが有紀を襲った。
(あ、あたしの格好!!!)
自分のシングルベッドの上で、毛一筋も身に着けていないすっぽんぽんだ。美しく
隆起した胸乳もなめらかな腰のくびれも、優美な曲線を描く腿も、淡く翳るデルタ
地帯もすべて晒されていた。
しかも両腕、両足は解剖されたカエルのように四方に全開に伸ばされ、ベッドのお
のおのの支柱に縛り付けられて身動きが取れない。生まれてこの方したことのない、
恥辱の姿勢を強いられていた。

(なんでッ…どうしてッ!!)
口を抑えられながら、目で懸命に訴える。
「大きな声を出すと、下の2人に聞こえるからな」と言って慎二は口を抑えた手を
離す。
「これを見られたら、結婚はご破算だ」(…この人!)有紀の母親が、完全に真に
参っていることを知っている。破談になればそのダメージは計り知れない。浮世離
れしたところもあり、自殺未遂騒動も過去に起こしたことがある。恋に賭ける女で
もある由布子の危ない面を有紀はよくわかっていた。
「ど…どうするつもり」冷静にしゃべろうとするが、声が震えてしまう。
「来月2人が結婚すれば、俺たちはきょうだいだ。4ヶ月早い俺が兄か…」全裸
有紀の両脇に手をついて見下ろしている。

「その前に、の身体をよく知っておこうと思ってね」と笑う。(このひと、どう
かしてる…でも、わたしがここで大声を出したら…)ジレンマに苛まれる有紀。慎
二が続けた。
「心配するな。処女は奪わない。身体を自由にさせてもらうだけだ。それならいい
だろう」
「…!」(そんな…ああ…でも)
「約束するよ。有紀が求めない限り、セックスはしない」
(勝手に呼び捨てにしないで!)怒りに震えるが、身体は動かせない。だいたい、
パジャマ下着をすべて脱がされ、両手足を縛られるまでまるで気づかなかったの
も不思議だった。

「女の身体に興味があるだけなんだ…ちょっと見せてもらうだけだよ…」
(どうしよ…でも…それだけなら我慢できるかしら…ああ…でも恥ずかし過ぎるッ)
大の字ににされたまま顔を紅潮させて悩みぬく美少女を見下ろしながら、慎二は
内心でほくそ笑む。
(写真で見たときも美少女だと思ったが、朝見た時は驚いたな…下手なタレント
ぞぶっ飛ぶくらいの美形じゃないか。親父が妙な母娘に引っ掛かったと聞いた時は
、うぜえと思った…娘も一発やってセックスフレンドにでもするかと思っていたが
…こりゃ作戦変更だ)
キレイな顔の割にヒネた所のある慎二は今回の結婚には反対だったが、娘の写真を
見てがぜん興味がわいた。急遽勉強もして、同じ学校に編入で入り込んだ。同じク
ラスは偶然だっ…