山本は矢継ぎ早に俺の悪口をあることないことまくし立てた。

英子はもう、うんざりしていた。
この二日間、いろいろなことがありすぎた・・・
一日目、秀樹に寝ている間にレイプされる・・・しかもなかだしされた・・・
しかも、あそこのなかだけではなく、顔や胸、お腹の上にも射精された・・・
二日目、秀樹が酔いつぶれた村上の事をレイプする。しかも、なかだしした・・・
そして、山本にはいろいろ連れまわされたあげく部屋に帰ることができなくなり
ラブホに泊まる事になった。そこで聞かされた秀樹の言った私の悪口・・・
最後には、秀樹は酔ったのではなく計画的に私と村上さんをレイプした・・・

「大丈夫?英子ちゃん」
山本は少々うつろになった英子の肩に手を置いた。

「えっ、うん、もう、凄くイヤだ」
英子は涙ぐんでいた。
さっきたくさん泣いてもうすっきりしたと思ったのに再び涙が溢れてきた。
「もういい・・・」

「えっ?」山本は間の抜けた返事をした。
「もういい・・・」英子は同じ事をつぶやいた。
「もういいって?・・・」
「いいよ、もういいよ、好きにしていいよ・・・」
英子は全てがイヤになっていた。大好きだった秀樹に裏切られるだなんて、
私の始めてをささげた愛しい人が私の事を裏切るだなんて・・・
しかも計画的にレイプをするだなんて、そんな人だっただなんて・・・

「えっ英子ちゃん・・・いいの?」
「・・・」英子はだまって何も答えなかった。
山本は英子が黙って返事をしないので英子の事をベッドにそっと寝かせた。
「・・・」英子はもう一言も言葉を発しなかった。
「はぁはぁ・・・」山本の息遣いは荒くなっていた。
「もういい・・・」英子の心の中ではこの言葉が何度も何度も繰り返されていた。

俺は英子の部屋にいた。
俺の目の前には英子がいる。
いつのまにか、少々やつれた雰囲気だ。
頬もこけて、体も一回り小さくなったような気がした。
それは尾羽打ち枯らした英子の雰囲気がそう感じさせているだけかもしれなかった。
健康的なイメージだった英子がなんだか不健康そうな女に変わっていたので驚いた。

しかし、豊かな英子の胸は健在だった。
やはり、英子の胸は目立つ。服越しではあったが英子のおっぱいは郷愁を感じさせた。
いつしか、俺の気持ちはあの頃へと飛んでいた。あの別荘へと・・・

「え、英子、どうしたんだよ、そんなにやつれてしまって・・・」
俺は嫌な予感がした、夏休み明けの山本の話では奴と英子が付き合っているとか言っていた。
英子は山本の奴に酷い仕打ちを受けたのだろうか?
英子の事を裏切った俺が言うのもなんだが、許せないと思った。
それほどまでにあの健康的で可憐だった英子がボロ雑巾のような姿になっていた。
俺には信じられなかった。

「何があったんだよ、しっかりしろよ・・・」
英子は俺の問いかけには何も答えずただうつむいているだけだった。
時折聞こえる鼻すすりから泣いているというのが聞いて取れる。
「英子・・・」
俺は英子の肩をそっと抱いた。

「秀樹!!!」
俺が方を抱くや否や英子は激しく俺にしがみついた。そして声をあげて泣き出した。
「ど、どうしたんだ?」
「何があったんだよ・・・」
英子は激しく慟哭するのみで俺の問いかけには一切答えなかった。
俺はどうしていいのか分からなかったので、英子が落ち着くまで抱きしめていることにした。
「英子・・・」
久しぶりに英子の体温を肌で感じる事ができた。
柔らかい、暖かい、俺の英子・・・

「いや、違うんだ・・・今はもう俺の英子ではない」
俺は先ほど頭に浮かんだ言葉を打ち消した。
今の俺には美香がいる。村上美香・・・これが俺の彼女だ。
今、目の前にいる女は昔は彼女ではあったが、今では山本の彼女になってしまった。
そして、俺が今愛しているのは美香だ。
今ここにいる英子ではない。

しかし、一度は愛し合った仲だ、泣いている英子をほおったからしにはできない。
一体何があったのだろうか?少なくとも俺に電話をしてきたということは、俺に聞いて欲しい
ことがあるからに違いない。
英子が落ち着きを取り戻したら聞きだしてみよう。
それまでは、俺の胸を貸してやる。泣きたければいくらでも泣けばいい。
別れた女とはいえ、俺にもそれくらいの度量はある・・・
俺は自分にそういい聞かした。

どれくらい英子は泣いていただろうか・・・
10分?20分?いや、1時間くらいだろうか・・・
この時の俺たちふたりの間には時間の流れなど関係がなかった。
まるで、あの愛し合っていた時期のようにふたりは固く抱き合っていた。
しかし、あの時と違うとしたらもうそこに心がなかったことだろう。
俺の心の中には美香がいる。

いつしか、英子も落ち着きを取り戻していた。
さきほどまでは肩で息をしていたが呼吸ももとに戻り、涙もでていないようだった。
「もう、落ち着いたか?」
「・・・」英子は声には出さなかったが、かすかにうなずいた。
「いったい、何があったの?」
俺は英子に聞いてみた。
英子は何も言わず、再び俺のことを固く固く抱きしめた。
俺は戸惑いだした・・・英子の方から俺とのコンタクトを完全に打ち切ったのだ。
それが今更こんな、いったい何事なんだろうか???そう思わずにはいられなかった。

そこからしばらく、俺たちは抱き合った。
英子が頬を俺の胸にこすりつけてきた。
昔、よく英子が俺に甘える時にしてきたしぐさだ・・・
あの当時は、そんな英子を俺は猫のようにかわいがった。
そして、当然のように愛し合った・・・

俺は、軽く頭を振って現実へと戻った。
「もういいだろう?なんで俺に電話してきたんだ?」
「違うの・・・」
「えっ?」
「違うの・・・」
英子はただそうつぶやくだけだった。
「何が違うんだ?」俺にはさっぱり分からなかった。

「秀樹は悪くなかったの、何もしていなかったのよ・・・」
「えっ?何言っているのかさっぱり分からないよ」
「違うの、私たち騙されていたの・・・」
英子はそう言うとまた涙が溢れてきた。
「おい、いったいなに言ってるのかさっぱり分からないよ」
「もう、泣くのはやめてくれよ、頭がおかしくなりそうだよ」
俺はなかばあきれてなかば切れかけてそういった。

「一体、何の話をしてるの?」
「あの時の、あの別荘の時のこと・・・」
英子は途切れ途切れに答えた。
「えっ?別荘の事・・・」
俺にとっては悪夢の出来事だったあの別荘での事件。
それを今更なにを言っているのだろうか?

「私たち、だまされていたのよ!」
英子は力かぎりの声で叫んだ。
「えっ?」
俺は全く理解できなかった。
「だ、だまされていた?」
「なっ、なにを言っているんだよ・・・」
俺は、気が遠くなりそうだった・・・

騙されていた、だまされていた、ダマサレテイタ・・・
俺の頭の中ではこの言葉が堂堂巡りをしていた。
騙されていた・・・
一体誰が何のために俺たちを騙していたというのだろうか?

「どういうことなんだ?」
「だますって、一体誰が・・・」
俺は、頭のてっぺんから血の気が引いていく気がした・・・

「え、英子、頼む、泣いてないでまじめに聞かせてくれ・・・」
「だって、だって・・・」
英子は再び泣きじゃくりだした。
ヒックヒックと喉を詰まらせながら涙をこらえようとしているようだが無理だった。
「おい、いったいどういうことなんだよ」
俺は、英子の言う騙されていたという言葉が非常に気になった。

あの場にいたのは俺と英子と山本と村上の4人だ。
この中で騙されたのはどうやら俺と英子のようだ。
それ以上の情報は泣きじゃくる英子からは入ってこない。
今考えうる事は、山本が単独で俺と英子を騙した説。
山本と村上が共謀して俺と英子を騙した説。
そしてもう一つの説は、村上が単独で俺と英子と山本を騙した説・・・

俺はこの時、血の気が引く思いをした・・・
あの山本の怒り様は本気のようだった。
ということは、山本もだまされていたのか?
すると村上が単独で俺たち3人を騙したのか?
俺も山本も英子も村上に踊らされていたのか?

俺は泣きじゃくる英子を抱きしめながら頭を働かせた。
村上は山本との関係に飽きていた。
山本の友人である俺に興味を抱いた。
しかし、俺は村上の事を嫌っていた。
俺と英子は人目がうらやむくらいに愛し合っていた。
俺と英子の仲たがいにさせるために俺を酔わせた。
俺は村上の思惑どうりに酔って英子に無茶苦茶した。

そして、雰囲気のきまづくなった俺と英子。
翌日の晩も俺を酔わせて今度は俺と村上が寝るようにしむける。
そして、気がついた山本が俺のことをぼこり、怒った英子は俺を捨てて帰る。
残された村上は俺にレイプされたと騒ぎ立てる。
警察沙汰を恐れた俺から金品を巻き上げた上に今後彼氏として付き合うように脅迫する。
そして、今にいたる・・・

そ、そんなバカな・・・
考えてみると筋道が通っているような気がする。
あの時、レイプされた警察に訴えるといいつづけていた村上がバッグを買うことと
責任を取って付き合うことを俺に強要した。
いったいどこにレイプした相手に付き合えと強要する女がいるのだろうか?
俺は、背筋に冷たいものが走った・・・

なんてことだ。
今では俺は村上にすっかり夢中になっている。
その村上が俺のことを騙すだなんて。
嘘だ、嘘だと言ってくれ・・・
俺の頭は混乱してきた。

「え、英子、俺は美香に、む、村上に、だ、騙されたのか?」
俺はやっとのことで声に出すことができた。
「うっ、うっ、村上さんはどうなのか分からない・・・うっうぅぅ」
英子もやっとのことで答えた。
「えっ?」
俺は声にならない声を出していた。
「村上さんは分からないってどういうこと?」

「私たちを、私たちを騙していたのは、山本よ!!!」
えっ?俺には全く理解できなかった。
山本が俺たちを騙していた?
一体何故・・・
あんなに怒って俺に殴りかかってきたあいつが俺たちを騙した?
あんなに仲のよかった俺のことを騙すだなんて・・・
いつもいろいろと気をつかってくれる山本が俺たちをだますだなんて。
ありえない。あいつは、人を騙すようなやつではない。

「なっ、何かの間違いだろ・・・あいつがそんなことするわけないじゃやないか」
「そ、それに、あいつにそんな人を騙すような度胸ないだろ・・・」
「何か勘違いしてるんじゃないか?」
いくら考えても俺には山本が人を騙すようなことをする奴でもないしまた、
そんなことができる奴ではない、そうとしか考えられなかった。
「あんなにいい奴いないじゃないか・・・それが、俺たちを騙すだなんて」
俺はなぜか山本のことを必死にかばっていた。
それは、俺があいつの彼女寝取ってしまったからなのかもしれない。

「なんで、秀樹はあんな奴の事をかばうの!!!」
英子は逆切れしたかのように俺のことを突き飛ばして叫んだ。
「なんで、あんな奴の事をかばうの!!!」
英子は涙でぐしょぐしょになった顔を赤らめて怒って叫んでいた。
「お、おい、どうしたんだよ、だいたいなにを根拠にそんなこと言っているんだよ!」
俺もヒステリーを起した英子に半ばイライラしながら怒鳴り返した。

「私、見たのよ!」
英子は半狂乱になりながら叫んだ。
「見たって何をだよ」俺はむっとしながら聞いた。
「写真をよ!」
「えっ?」
「写真を見たのよ。」

「お前の言ってる事支離滅裂でさっぱり把からねぇよ」
俺もぶちぎれる寸前だった。
「頭どうかしちまったんじゃないか?」
俺は言ってはならないことを言い放ってしまった。
「キーーーー」
まさにそんな感じで英子は俺に飛び掛ってきた。
まさに、半狂乱、乱心を起したとしか言えなかった。
「ど、どうしたんだよ!おい、いいかげんにしろよ!」
俺は英子を振りほどいて突き飛ばした。

「いいかげんにしろよ!ヨタ話を聞かせるために俺のこと呼び出したんなら俺はもう帰るぞ!」
いいかげんに、ヒステリックな女を相手にするのに疲れた俺は最終手段に出た。
暴力を振るうのは嫌いだが、相手がかかってくるのではどうしょうもない。
今まで、一度も英子にも他の女にも暴力を振るったことはなかったが止むを得なかった。
「帰るからな!」俺はそういい捨てるなり英子の部屋を出た。

「待って!」
英子は出て行く俺にしがみついて止めた。
「放せよ!」
俺は英子を振りほどいた。
「ヒステリーを起す女は大っ嫌いなんだよ!」
俺は最大限の侮辱を込めて言い放った。
「ごめんなさい、もう二度とあんなことしません」
英子は土下座せんばかりに謝った。
「お願い、お願いだから話を聞いて・・・」

だいぶ落ち着きを取り戻したのか、さきほどの英子とは様子が変わっていた。
この状態なら話ができると思った俺は、とりあえず、英子の話を聞くことにした。
やはり、英子の言っていた騙されていたという言葉が気になったのも確かだが。

「じゃ、落ち着いて話して欲しい。頼むから、もう泣いたり叫んだりはやめて欲しい」

「うん、分かった」英子はそう言った。


その男、昏睡中                          13