「常識で考えろよ、酒と睡眠薬一緒に飲んだらどうなんだよ!」

「医者も言っていたんだろ、睡眠薬と酒を一緒に服用すると危ないと」
「だって、効くかどうかなんか分からなかったからよ」
「・・・」俺は黙り込んだ。やはり、英子はどうかしてる。
「そんな顔しないでよ、まだ、私のこと疑っているでしょ」
「別に、疑うとかそんなんじゃないよ」
俺はもう、どうでもよくなった。疲れたし、眠い。
それに今、俺が愛しているのは美香だった。

「ごめん、もう朝になるし・・・俺、親に何も言わずに出てきたからやばいよ」
「車で来てるし、うちの親が厳しいのは知ってんだろ」
「英子が酷い眼にあったことはかわいそうだと思うよ、でも、離れていったのは

英子のほうだろ」
「確かに、酔っていたとは言え美香と寝てしまった事はすまないと思ってるよ」
「でも、もう、今は、俺、好きなのは美香なんだよ」
俺は一気にまくし立てた。

「・・・」
英子は顔を真っ青にしてぶるぶると震えていた。
俺は少々言い過ぎてしまったかと思ったが、英子に変に気を持たせてもいけないし、
いずれは告げなくてはならないことなら早いほうがいいと思った。
確かに、俺は英子の事を愛していた。
しかし、今では違う。俺が愛していたのは村上だった。

「・・・」
「・・・」
お互いにらみ合うようにしばらく口を開かなかった。
英子もつらいだろうが俺も非常につらい。
俺は英子とやり直したくて必死にコンタクトを取ろうとしていた。
しかし、携帯は着信拒否にされる、部屋を訪ねても留守にしている。
そして最後には合鍵も変えられてしまった。
俺は英子に連絡のとりようがなくなっていた。

そんな中で、休み明けに山本に英子との仲を取り直してもらおうと思い、
やつに仲直りの申し入れをしたところ英子と付き合っていると告げられた。
当然俺は落ち込み、次第に村上との付き合いにのめり込んでいった。
村上は非常に俺につくしてくれた。今まで付き合っていた英子が何も
してくれなかったのに対し村上は何から何まで面倒を見てくれた。
村上はとても人には聞かせられないような過去も打ち明けてくれた。
次第に俺は村上の事を心から愛するようになっていた。
今、俺の事を心底信頼してくれているのは村上だ。
俺の事を心底愛してくれているのはまぎれもなく村上だった。

はじめのうちは鶏がらなどと呼んで侮蔑をしていたが、最近ではボディーボードも
やめて色黒に焼けた肌や肌荒れも回復しつつあった。
そして海に行くのをやめて以来筋肉質だった体型も徐々に丸みを増して女らしくなってきていた。
さすがに、いきなり体型が変わるわけがないが、今では以前ほどカラスや鶏がらを
イメージしなくなってきていた。
村上は外見を努力して俺の好みに合わせてくれようとしていた。
性格は付き合ってみたら思っていた以上だった。
今では、村上以外の女は全く考えられなかった。

「これを見てもそんなことまだ言っていられるの・・・」
英子は強張った表情のまま引出しの中から何か取り出してきた。
俺にはその動作がスローモーションのように非常にゆっくりと感じられた。
「な、なんだよ、それは・・・」
俺は英子の手にあるものに目をやった。

英子の手には白い小さな紙袋が乗せられていた。
「それが一体なんなんだよ・・・」
「手にとって見れば分かるわよ」
俺は恐る恐るそれを手にとって見た。
そのものが恐かったわけではなく、英子の表情が異常でそちらのほうに恐れをなしていた。

「こ、これは、さっき英子が言っていた山本が隠し持っていた睡眠薬か?」
「そう・・・」
「別に、こんなもん見たからっておどろかねぇよ。山本が英子の事眠らせようと
して睡眠薬を盛っていたんだろ?」
「悪いけど、もう、英子と山本の事に俺の事巻き込まないでくれよ」
「警察にでもなんにでも行って訴えてくればいいだろ」

「じゃ、これを見て!」英子は再びヒステリックになっていた。
そう言って英子は自分のパソコンを立ち上げた。
俺には、その時間がやけに長く感じられた。
疲れもピークに達していた。
英子は一体何を考えているのだろうか?
俺はもう、英子とは切れて村上と付き合っている、
もう関係のないことに巻き込まれたくない。

英子はCDRを取り出してウインドウを開き、その中の画像を開いた・・・
それは英子の裸の画像であった・・・
「なっなんだよ、これは・・・」
「山本が持っていたのよ」
「だからって、なんで俺にこんなもん見せつけんだよ・・・」
俺は少々動揺していた。

「他にもあるから全部見てから言ってよ」
英子は涙目になりながら言った。
画像を一つづつゆっくりと開いていく。
英子の裸の画像がたくさん現れた。
そのうちに、英子の局部に男のモノが挿入されている画像も出てきた。
おそらく、山本のものだろう。
俺は正直言って見ていられなかった。

いくら分かれたとはいえ付き合っていた女のハメドリ画像
など直視できるものではなかった。
しかし、英子はかまわずにどんどん画像を開いていった。
次第に射精しているシーンも出てきた。
英子の中に出している画像、そして、腹の上や胸に、顔に
かけている画像が出てきた。

「なに考えてんだよ、こんなもん俺に見せて!」
俺ははっきり言って吐き気をもよおしていた。
こんな画像を見せ付けられてまともでいられる奴などいるのだろうか?
「最後まで黙って見ていてよ!」
英子は怒鳴りつけた。

俺は再び画面に眼をやった。
英子の顔シャのアップになった・・・
目は半開きで口はだらしなく開いていた。
「この次よ・・・」
英子はゆっくりとアイコンをクリックした。
「あっ!!!」
俺は我が眼を疑った・・・

そこには、俺が写っていた。
やはりだらしなく開いた口がまるで死人のような顔をしていた。
それだけでなく、俺は英子と二人並んで撮影されていた・・・
そしてその写真は紛れもなく、うちの別荘で撮影されたものに
間違いがなかった・・・

「なっ、なんなんだよこの画像は!何でこんな写真があるんだよ!」
俺は絶句した。
訳がわからなかった。
俺と英子は間違いなく、うちの別荘の俺と英子が停まった部屋のベッドに
二人並んで寝ているところを撮影されていた。
もちろん、2人とも全裸であった。

「ま、前の画像も・・・」
俺は震える手で英子の手からマウスを奪うと先ほどの画像をもう一度確認してみた。
英子のハメドリ画像に写っているシーツも俺と英子が並んで写っている写真のものと
一致していた。
どこにでもあるようなシーツであったため、はじめのうちはそれが、うちの別荘の
ベッドのものとは気がつかなかった。
しかし、英子が山本に犯されている写真は間違いなく、別荘のベッドの上でのことだった。

「まっ、まさか、あいつが・・・」
俺は衝撃と寒気で額から脂汗が流れ出ていた。
「お、俺も、やつにはめられたのか・・・」
「あ、あいつ、あん時に、酒に睡眠薬を仕込んでやがったのか?・・・」
「俺、だまされていたのか・・・」

「じゃ、お、おれ・・・まだ英子となまでやってなかったのか?」
「なかだししたのは俺じゃなかったのか?」
俺は急に憎しみがこみ上げてきた。
親友だと思っていた山本が俺たちの酒に睡眠薬を仕込んで
俺の大切な英子を強姦していただなんて・・・
それに、こんな写真まで撮影していたとは・・・

「え、英子、英子・・・」
俺は我慢できなくなって英子を抱きしめた。
「ご、ごめん、ごめん・・・」
俺は英子の事が好きだ!たまらなく好きだ!
英子が大切だ!許してくれ!
頭の中は混乱していた。俺は心の底から英子にすまないと思った。

英子は俺がはじめての相手だった。
俺は、英子と将来を共にしてもいいかなと思った時もあった。
その英子が山本みたいな卑劣な野郎にレイプされてしまった・・・
俺が守ってやらなけりゃならなかったのに、
俺がささえてやらなきゃ何もできなかった英子が・・・
俺がついていながら・・・

「ごめん、ごめん・・・」
俺の口からはそれしか出てこなかった。
いろいろと言ってやりたかったけれども声にだして言えなかった。
つらかっただろう、ゆるしてくれな。
心の中ではいろいろな思いが込み上げてくるが声にならない。
いつしか俺の目は涙でぐしょぐしょになり
喉から出てくるのも嗚咽のみであった・・・

俺と英子は抱きあったまま泣いていた。
いくら泣いても泣き尽くせないほどせつなく悲しい思いが溢れ出てきた。
殺してやる!生かしておく事はできない!
俺の心の中には山本に対する殺意が芽生えた。
死体さえ見つからなければ、あんな野郎が独り行方不明になろうが捜査など
されるわけがない。
あいつを殺して夜のうちに別荘の庭の地中深くに埋めてしまえば見つかりっこない。
念入りに深い穴をほってセメントで固めてしまえば大丈夫だ!
俺は真剣にそう思った。

「あの野郎生かしておけない」
俺はようやくの思いで声に出した。
「まだ、他にも画像があるんだろ!」
俺は殺気立って英子に言った。
「あるけれども・・・見ないほうがいい・・・」
英子は怒る俺に恐れをだいたのかそんなことを言った。

俺は静止する英子にかまわず画像を開いた。
再び俺と英子が寝ている写真などがクローズされたりひいて撮っていたりなどの写真が続いた。
その後、村上の画像も現れた。
「うっ・・・」
やはり眠った村上の裸の写真だった。
この時、英子に対する愛しさと村上に対する愛情が交叉した。
英子は村上の写真を見ることにより俺の心が村上に戻るのを恐れていたのか?

そんなことを考えもしたが、村上の画像が出てきた事で俺は薄々感づいた。
村上との事件もやつがでっち上げたのか・・・
俺は深く呼吸をすると、続く画像を開いた。
そこにはやはり思ったとおり奴が村上を犯している画像が続いた。
この時は、奴は村上になかだしを1回やっただけでハメドリは終わっていた。
その後は英子の時と同様に俺と村上を並べて寝かせた上で撮影をしている。

やはり、英子と別れる原因となった村上との事件も奴のでっちあげ
ということが判明した。
あの野郎!俺は真剣に奴に対して殺意を覚えた。
この画像を見るかぎり、俺も英子も村上も被害者である。
加害者はたった一人、山本だけである。

「ねぇ、もう、終わりにしておきなよ」
英子は再び俺を制止しようとした。
しかし、全てを見なければ気がすまなかった。
これ以上の衝撃はもうないだろう。
奴のやらかした悪行を全て見届けなくては気がすまなかった。
俺は画像をさらに開いた。

「うっ・・・」
そこには信じられない画像があった・・・
俺は我が眼を疑った・・・
奴は一体何を考えてこんな写真を撮影したのだろうか?
奴は正常な人間じゃない・・・

そこには、俺のちんちんをくわえている山本の画像があった。
一体、この画像の意味している事はなんであろうか?
次の画像では奴がVサインをしながら俺のモノをくわえていた。
これは俺に対する勝利を焼き付けるために撮ったものだろうか?
俺は血の気がひいていくのを感じた。

次の画像ではこともあろうか、奴が俺の半開きの口に汚いちんちんを
押し込んで撮っていた。
俺の口に押し込もうとしている写真はその一枚のみであった。
しかし、次の写真は俺にとっては死にたくなるほどの衝撃であった。

奴は半開きの俺の口の中に精液を射精していた・・・
奴が何のためにこんな事をしたのか分からない。
理解できなかった。
隣にいる英子も顔が青ざめていた。
俺の体は小刻みに震え、吐き気をもよおしていた。

次の写真は精液まみれになった口元をアップに撮影した写真・・・
次はそれをひいて撮った写真・・・
俺は、今でも奴の精液が口の中に残っているような気がしてたまらなかった。
画像を見てから、まだ唾液を飲み込んでいないことに気がついた。
気持ち悪い。もはやそれを通り越していた。

さすがに奴は肛門にぶち込む事まではしなかったようだ。
いくらなんでも、そこまでやったらばれると思ったのか、
それとも撮影はしなかったのか、撮影はしたがこのCDRに
焼き付けなかったのかは分からない。
しかし、肛門は無事だと俺は信じている。
というよりも絶対にやられていないと信じている。

それで、画像は終わっていた。
これで、奴がまともな人間では無いと言うのがよく分かった。
酒に睡眠薬をしこんだだけでなく、英子をレイプして画像として
残しておき、さらに、裸の俺と英子を並べて撮影するあたりが
奴の異常さを物語っている。
それどころか、自分の彼女昏睡レイプしその後、再び俺と並べて
撮影し、俺に罪をかぶせたり、俺のちんちんをくわえたり
俺の口の中に射精したりなど通常の人間の考える行為ではない。

俺は、この時、既に冷静さを失っていた。
昏睡中に英子が山本にレイプされた事もさることながら
俺自身もおもちゃにされていたことに憎しみを抱いた。
村上をレイプした事を俺の仕業に見せかけようとしたことにも
腹を立てた。

その時、インターホンがなった。
「えっ?こんな時間に一体誰だろうか?」
俺は言った。
ふと窓の外を見ると空は明るんでいた。
いつのまにか、夜は明けていた。

「えっ・・・こんなに早い時間に・・・」
確かに、初冬とはいえ夜は明けていたがまだ人が尋ねてくるには早い時間だった。
英子は少々不安そうな顔をしていた。


その男、昏睡中                                
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