「ぶちゅっ、れろれろっ、ブボブボブボブボっ!っはぁ、倉田様、おちんぽ気持ちいいれすか?あへぇ・・・べろべろべろべろ・・・」
 誰もいない深夜のオフィスに、艶めいた淫音が響いていた。倉田と呼ばれた眼光の鋭い男は、自分のそそりたった肉棒をデスクの下に隠れてしゃぶっている瞳というOLを見下ろしながら、心中別の女のことを考えていた。倉田がどんな手を使っても誘いに応じてこない、同じ課の加納という女のことだった。
 「あはぁ・・・すっごい大きい・・・!ブポッ!クポっ!くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ・・・瞳のお口、おチンポ便所に使ってえ・・・倉田様のおちんぽだったら、いつでも瞳のお口は営業中なんですからあ・・・ブポッ!あはぁん・・・ザーメン出してよぉ・・・」

――この女もずいぶん口奉仕がうまくなってきたが、今夜はもう射精する気分ではないな。
倉田はそう思い、「もういい。やめろ」と女に命じた。女は一瞬不満そうな表情をしたが、倉田ににらまれるとおびえたようにすくみ、乱れていた服を直すと逃げるようにオフィスを駆けだしていった。倉田はつまらなそうにその姿を見送ると、着衣の乱れを直し、美しい夜景を映し出すガラス窓のほうへと近づいた。
いま犯したいのはあの女じゃない、と倉田は思う。女に全く不自由したことのない倉田が、いま心底汚してやりたいと思っている女がいる。その女・・・加納咲希の顔が、ガラスの中に浮かぶビル街の夜光の中に、浮かんでは消えていった。


             * * *
 倉田修一は、実のところ自分は大して邪悪な人間ではないと常々考えていた。
確かに倉田は小さなころから、他人の幸せを奪ったり、壊したり、台無しにすることを好む、異常な性癖に支配されて生きてきた。中でも特に、他人の妻や彼女を力づくで自分のものにし、倉田なしにはいられない体にする――いわゆる『女を寝取る』ということについては、倉田は偏執的ともいえるフェチシズムとこだわりを感じる人間だった。
大学時代から、他人から寝取った女は数知れない。いけすかない助教授の妻が意外に美人だったので、時間をかけて倉田のチンポ奴隷にしてやったこともあったし、親友が初めて彼女が出来たというので、その相手の彼女をその日のうちに落とし――高級車とプラチナカードに目を輝かせるような安っぽい女だった――毎日倉田の部屋でハメまくってやったこともあった。傑作だったのは入社当初、コネ入社だとかいって倉田に色々といやがらせをしてきた同僚の男だ。彼は今も、倉田が自分の留守中に何度も自分の妻を犯しまくっていたことを知らないし、倉田が中だしをしまくったから出来た子供とも知らず、2人の娘のことを溺愛している。
しかし、倉田は決して女を力尽くでレイプするとか、何かで脅して従わせ続けるということはしなかった。女を落とすテクニックとして、強引に迫ったり薬を使ったりすることはあっても、あくまでも「女が自分で倉田との関係におぼれ、旦那や彼氏を裏切って倉田に忠誠を誓う」というプロセスこそが重要であり、美しいと彼は考えていた。女をモノにするのはビジネスと同じだ。結果にも過程にも、ある種のスマートさがなければいけないのだ。
生まれに恵まれ、才能にも体格にも、運についても恵まれた自分は、何かに選ばれた人間だと倉田は考えていた。「選ばれた人間には、いつか全ての人間がひれ伏すことになる」。それが、エリートたる彼の信条であり、美学だった。
 しかし、そんな倉田のプライドがただ一度、傷つけられたことがあった。
数年前の春、倉田の部下として配属されてきた加納咲希という美しい新人OLがいた。履歴書によればまだ大学を出たての23歳で、清楚で穏やかな顔立ちをした、いかにも「男を知らない」といった印象の女性だった。目元のほくろが印象的で、化粧気のない肌には若々しいつやがある。地味な服装や髪型をしているわりに、なにか倉田を引きつける魅力が、彼女にはあった。彼女が配属のあいさつに訪れたとき、倉田はじろじろとそのリクルートスーツの下の肉体に視線を這わせながら、内心ほくそ笑んだものだった。倉田はこうした男ズレしていない大人しい女をあの手この手で籠絡し、最終的にド派手な化粧と娼婦のような卑猥な格好を好む「淫乱女」に堕落させるのが、何よりも好きな男だったのだ。
倉田はそのころから六本木や赤坂に数カ所のマンションを持っており、すでにそれぞれに「愛人」――もちろん、それぞれに倉田以外の配偶者がいた――を囲っていたが、ちょうどそのOLが配属されたのは倉田が現在のコレクションに「飽き」を覚えていたころだった。
倉田はさっそく仕事の打ち合わせや研修にかこつけて咲希に迫った。赤坂の高級レストランでの夕食を誘ってみたり、休日にドライブに誘ってみたり。しかし、咲希はその都度、いろいろな理由をつけて倉田をすげなく袖にした。
(地味な女に見えたが、男でもいたのか?)
倉田がそれとなく社内で情報を集めてみると、咲希は営業3課にいる二年生の「工藤」という男と、大学時代からデキているのだという。工藤という男に聞き覚えはなかったが、後日社内でちらりと見た感じでは、はっきり言って倉田の相手になるような男ではなかった。線は細く、女のような顔立ち。表情にはハリがなく、おどおどとしていかにも頼りない男だった。そう見えて実は仕事がデキるのかと思い、人事にかけあって営業成績も見てみたが、ぱっとしないどころか今期のノルマを達成できるとはとても思えない、最低といっていいクラスの成績だった。
もちろん倉田がいくらいい男とはいえ、最初からその誘いに応じる女はそう多くはない。「ごめんなさい、夫に悪くて」「彼氏に怒られますから」・・・倉田は女たちのそうした「言い訳」を飽きるほど耳にしてきた。しかし今はそんな女たちも、倉田がきまぐれに携帯を鳴らし、一夜の奴隷妻にされるのをマン汁をあふれさせながら待つ、ただの変態女にすっかり改造されている。結局のところ、真の愛、永遠の愛なんてものは存在しないのだ。倉田はそれを心底知っていたから、少々時間はかかっても、工藤という優男から女を一人奪うことくらいたやすい事だと高をくくっていた。
 しかし、咲希はがんとして倉田の誘いを受けなかった。業務上の命令としては応じるのだが、理由をつけられない夕食だとか、「ちょっと飲みに」といった誘いは全てはねつけられた。例えば工藤の弱みを握って、それをタテに咲希を脅すとか、もっと単純に薬を盛ってモノにするといった強硬手段も考えたが、倉田はそうはしなかった。倉田の美学に反することだったし、何より手練手管を尽くしても応じないこの女を、なんとしても自分のザーメンがなくては生きられない、アヘ顔の変態メス奴隷に堕としてやると心を決めていたのだ。
 しかし、その倉田の決心はあえなく砕け散ることとなった。咲希が2年目のある日、倉田のもとへ寿退社をすると申し出てきたのだった。
「営業三課にいる工藤翔太と、この度結婚することになりました」と、はにかみながら報告する咲希に、なんとか平静を装って祝福の言葉を述べた倉田だったが、その内心はマグマのように煮えくりかえっていた。こんなに時間をかけて、俺はなにをやっていたんだ。あんなくだらない男に操を立てて、咲希は俺の誘いを断り続けたのか。金も力も将来もある俺よりも、あの貧乏くさい優男を選んだっていうのか?
課の同僚たちに祝福されている咲希をにらみ、ぎりぎりと歯がみしながら、倉田はこの幸せそうな顔をどうやって自分のザーメンまみれの下品なビッチ顔に変えてやるかと画策していた。もう手段は選ばない。この俺に恥をかかせたこの女を、これまで俺のコレクションのどの女よりもみじめな変態性癖の奴隷娼婦に改造し、その夫になる工藤という優男も寝取られM奴隷として俺に屈服させ、夫婦で床に落ちた俺の精液をなめ回させてやる。倉田は自分への怒りを、目的意識へと昇華させた。
いつものことだ。クールに、そしてクレバーに。
選ばれた人間には、いずれ全ての人間がひれ伏すことになるのだから。
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