静江に連れてこられた病院の看板には『池下産婦人科』とピンクのかわいらしい書体の文字で書かれていた。
春も本番になろうかという三月初旬の朝だった。
カーテンの閉まった玄関口の前に佇む二人の間を、早くも散り始めた桜の花びらがゆるゆると落ちていく。
「今日は休みみたいだね。……また今度にしようか」 自分より五センチ以上背が高く、肩幅さえ広そうな静江を見上げて滋が気弱な声を上げた。
「あ、そうだ。忘れてた。休みの日だから裏口から入ってと言われてたんだったわ」 ちらりと滋を見た静江がひとつ頷いて言った。
後は無言で滋を引っ張り右横のビルとの間の細い通路を入っていく。-----続きを読む